夜鷹のカッツェ

後藤カッツェの独り言

招かれざる訪問者

 仕事が終わり、家に着いた。万年床と化したソファベットに横たわり彼氏と他愛もない会話をしていたアフターファイブ。正社員として働く生活にも慣れて、そろそろテレビでも買ってみようかと思っていた。我が家にはテレビが無い。入居当初、テレビを置くと余暇時間をテレビにとられてしまう!創作活動ができない!など思い、テレビを買わなかった。テレビを買わなくても創作活動はしなかった。万年床で横になる事以上に私の心を躍らせるものが無かった。

 

 

 彼氏と終始電話しているとピンポンとインターホンが鳴った。ついに両隣のどちらかが「毎日電話してるんじゃないよ!うるさいわね!」とクレームが来たのかと思った。我が家は両隣のクシャミや屁の音が聞こえるくらいに壁が薄い。夜の情事の音もどこからともなく響く事もある。それほどに薄い。極うす君くらいには薄いと思う。腹をくくって怒られようと1Kの我が家の廊下を歩く、すぐに追撃してピンポンと鳴る。急かしい人だ。私は逃げたりしな………扉を開けると知らないおじさんが立っていた。

 

 

「こんばんは!NHKです。衛星映ってますか?」

 

 

 

招かれざる訪問者が我が家に到来した。一人暮らしの恐怖あるあるNHK(から委託されて集金に来てる業者)笑顔の小太りのおっさんが私に衛星は映っているかと質問している。頭が真っ白になってしまった。咄嗟に出た言葉は「映ってないです」だ。これが間違いであった。テレビが無い事をまず言えば良かったと反省している。小太りおっさんは「なるほど!ここのアパート全体的に衛星が映っていないようで、もし衛星をご覧になりたいならJCOMなど個別で契約していただく必要がありますね。2ヶ月分でこちらの料金になりますね」とさも私がテレビ所有者だと確信した話ぶりであった。知らないおっさん、清潔感を出そうとしてる装いだが、いかんせん太っていて夏場ゆえに湿った皮膚。喫煙者らしいドス黒い肌から底知れぬ恐ろしさを秘めているように見えた。早口で契約を急かすおっさんに引いてしまった。

 

「ちょっと家族に電話して聞いてみます……」と拒否の姿勢をおっさんに見せた途端、優しい口調から打って変わってインテリヤクザになった。「いや困るんですよ。いままで見ていた分のお金もありますし、放送法という法律があるんです。国民の義務なんですよ!本来ならすぐに支払ってもらう必要があるのです。」とおっさんは玄関前で切れた。一人暮らしのか弱い女性である後藤カッツェ。さっきまで穏やかそうに話していたおっさんが急にDV男みたいな口調になって更に涙目になる。「彼氏と変わってください……」と洗面台に置いておいたスマホをおっさんに手渡す。頼れるものがスマートホン越しにいる彼氏しかいなかった。世紀末なら死んでいた。NHK(から委託を受けて集金に来る業者)は、はぁ?みたいな顔をした。そして「親族じゃないとお話になりません!今すぐ父親なりなんなり電話してくださいヨォ!」とドヤしてくる。もうこのおっさんを私は止められない。そう思った。そしてTwitterのような対応をしてみた。

 

 

 

「あの、怖いんで。閉めますね……」

扉を閉めたのである。さながらクソリプしてくるアカウントをブロックするかのように、急に鍵垢にするような対応をした。あの!困ります!!とドヤす声が聞こえてくる。もう知らない。女性だからって舐め腐った態度が気に食わなかった。脅せば契約するとでも思ったか。テレビ所有の有無もわからない癖に怒鳴るなんてヒドい!ベットに駆け込み彼氏と電話する平穏に戻った。来訪予定が無い時には扉を開けてはならない。私は一人暮らしの洗礼を受けた。もう絶対にピンポンに快くドアを開けない。私は鍵垢だ!鍵垢だから知らない人は見れなくていいのだ!!許さん!!もう同じ過ちはおかさぬ!!と思った5日後に自分で頼んだAmazon配達に居留守をしてしまう失敗をしたカッツェでした。NHK(から委託を受けて集金に来る業者)はどの時間でも訪問して良い権利があるらしいので気をつけてくださいね。いつどこにでもあいつらは現れる。招かれざる訪問者をブロックした次の日に近くのスーパーでタバコを吸う小太りのおっさんを見かけて血の気がサッと引いた。そしてこの人ずっと仕事してて偉いた思った。ブラック企業が早くなくなりますように。そしたら他人の事を怒鳴りつけるような人は少しでも減ると思うんだ。万年床を干してふかふかのベットで寝られる日々をすべての労働者、経営者たちに与えられる事を祈りながらベッド横になります。おやすみ。